アメモノウォッチャー

アメリカ在住者がご当地の気なるモノをピックアップし、ご紹介します。

クリントンさん危機一髪じゃなくて

 いきなりですが、先日うちの近所にクリントン元大統領がヒラリー夫人とともにやってまいりました。お芝居を観賞するためのもっぱらプライベートな訪問です。大統領のほうはすっかり影が薄くなった感がありますが、ヒラリーさんは三年前の大統領選のインパクトがいまだに尾を引いていて、何をするにも国民の耳目を集めます。

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ボスコベルのテント

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拍手喝采のクリントンご夫妻

 そんなお二人がお揃いでやってきたのは、我が家の隣町のボスコベルという庭園観光の名所です。大統領夫妻の住む町から30分程の所なので、噂は伝わっていたのでしょう。もともとがハドソン川を見渡す広大な私有地だった場所で、一年を通して一般の人に公開されています。結婚式やグループのパーティ、学生の卒業イベントなどに活用されることも多く、ぼくもりんご狩りや美術観賞に出かけたことを思い出します。よく管理された綺麗で緑豊かな庭園は古くから定評があり、100年以上前に建てられた歴史的建造物と相まってとても絵になる観光地です。

 とりわけ人気なのは、夏の間だけのスペシャルイベントとして行われる野外の演劇講演です。なづけて「シェークスピアフェスティバル」

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広大な敷地に美しい景観

 川を見下ろす風光明媚な丘にサーカスのようなテント劇場をこしらえ、森の真ん中で本場仕込みのシェークスピアのお芝居を観賞できるというものです。

 始めた当初は知る人ぞ知るローカルなイベントだったのですが、近年はネットなどの情報でどんどん話題が広まり、遠路はるばる他州からも鑑賞希望者が続々押し寄せる人気イベントに成長しました。

 今年も大勢の人が入り口に列を並べているので今年の演目は何かと思ってポスターを見たらなんと「Into The Woods」とありました。まったく知らなかったのですが最近はシェイクスピアに限らずいろんな演目を発表しているようですね。

「Into The Woods」と言えば、本場ブロードウェイでも大人気となったお芝居です。メリル・ストリープ主演で映画にもなりましたよね。そのせいかずいぶん若い人たちが出入り口にたむろしていました。

 私もシェイクスピアではちょっと敷居が高いかなと思って敬遠していたのですが、今年の演目を知っていたら行っていたかもしれません。

 ちなみにアメリカ人にとってシェイクスピアはやはり別格。学校でも中学高校と繰り返し国語や美術のカリキュラムに登場します。ちょっとした会話の中にもシェイクスピア劇からの引用がさらっと出てきたりするので、こっちは知らないとぽかんとしてしまいます。まぁそれくらいシェイクスピアはアメリカ人の中に浸透している演劇文化の巨人なのでしょう。でも今年は古典から離れて、ずっとモダンな最近作とあって新しい客層も獲得したようです。そのなかのひとカップルが元大統領夫妻だったというわけです。おりしもその晩、ぼくは仕事で当のボスコベルで芝居が終わったあとに、人と会う約束がありました。これはちらっとでも大統領夫妻が見れるかも。などと思っておりました。

 ところがここからがちょっと一悶着。

 ツイッターの新着情報に「クリントンがボスコベルでお芝居観賞中ナウ」

「ええ、ホント?」

「偽物じゃ無いの」

「いいえ、本物です」

 このへんまではよかった。ところが別のスレッドが割り込んできて、

「その近くで警官を襲った暴漢が逃走中だって」

「まじかよ」「うそだろ」

「ホントみたい。警戒警報聞いた。隣町でだれかが警官ともめたらしい」

「すごい、パトカーが何台もピカピカとライト点滅させて走ってる。なんだこの騒ぎは」

「やばい、うちの近くで犯人追跡中だって」

「ちょっとまて。どこの話だ」

「フィッシュキル」「ルート9だって。警察無線漏れたらしい」「ルート9ってボスコベルじゃないのか?」「嘘でしょ」

 

  町の名前やストリート名が錯綜するが、そのうちの一つはずばりボスコベルのある通りの名前。おいおい大丈夫かよ。内心ドキドキし始めました。だってよりによって元大統領がきてる最中ですよ。もちろんシークレットサービスはついてるはず。だからなおさらことが大きくならないかと妄想してしまいます。

しばらくして、「ボスコベルに救急車到着」という書き込み。

まさに「ええー!!」です。

一体何が起きたんだと思っていたら、約束の知人からメッセージが届き、会う約束をキャンセルしてきました。

 いったい何が起きてるんだ。うわこれヤバイかも。何が何だかわかりませんが、僕は外に出て車に乗ろうか引き返そうかと思わずウロウロ。

 家内が見かねて、「あぶないかもしれないから、はっきりするまで出歩かないで!」ぴしゃりと釘を刺されました。

 んでもってしばらくすると、途切れ途切れにツイートが追加され、‘全貌が明らかになってきました。

 結論から言うと、芝居はつつがなく終了し、大統領夫妻は何事もなく笑顔で手を振って帰って行かれたとのこと。警官を襲った事件は本当だが遠く離れた別の町の話。ボスコベルの救急車は観客の一人が体調不良で呼び出されたもの。知人からのキャンセルは芝居が予定より長引いて夜遅くなりすぎたため、だそうで・・・。

 はあ~ (と脱力)

 大山鳴動して鼠一匹、みたいな結末デシタ。